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元捕虜の訪日記録

英連邦戦死者墓地訪問−2011年3月8日

田村佳子

外務省より招聘され3月1日から訪日中の元オーストラリア軍兵士5名とその家族等の一行は、8日午前、横浜市保土ヶ谷区にある英連邦戦死者墓地を訪れた。彼らは第二次大戦中、シンガポールやジャワで日本軍の捕虜となり、泰緬鉄道建設に従事、その後日本に移送され、更なる労役を課せられた人々である。捕虜収容所は日本各地130か所にあった。彼らは来日後それぞれゆかりの土地へとまず出かけ、収容所跡を訪ねたり、当時を覚えている人と会ったり、中には秘かに親切にしてくれた人達の家族と旧交を温めたりもした。一泊二日のあわただしい旅であったはずだが、その分濃密な時間でもあったようだ。一様に忘れがたい時を過ごされたようで、8日朝、墓地でお会いすると、皆一様に「素晴らしい旅だった。」と話された。彼らの中には、金輪際二度と関わりたくない、と戦後ずっと日本人とのかかわりを絶ち、怒りをあらわにしていた人もいたが、何か吹っ切れたような晴々とした表情はうれしくまた安堵するものがあった。

英連邦戦死者墓地は、主に日本での使役中に亡くなった連合軍の捕虜達の遺骨が戦後、各収容所から集められ埋葬されたもので、国籍に応じてイギリス区、カナダ・ニュージーランド区、インド区等に分かれている。オーストラリア兵が埋葬されているこのオーストラリア区では、彼らの為に椅子が用意されていた。オーストラリア大使、武官そして数人の大使館員とその他の参列者が待つ中、彼らのバスが到着した。数分の歓談の後、心のこもった式典が始まった。大使がまず彼ら捕虜時代の折の苦労、そして90歳にもなる齢をおしての今回の長旅をねぎらい、献花となった。彼らは一人ひとり立ち上がり、用意されていたリースを故国に戻ることが叶わなかった戦友達の為、捧げた。その度に軍医であったリチャーズさんの「よく務めた!」と大きな声が響いた。彼ら夫々にとって万感の思いの献花であっただろう。中には突然号泣せんばかりに席に倒れ込んだ人もいた。胸中何が浮かんだのだろうか。母国への思いを馳せながら苦痛の中に死に絶え今は墓石の下に眠る彼ら、そして同じ捕虜ではあったが幸いにも生き長らえ生還し様々な人生を歩んで来た彼ら。目の前で広がる何という対比であろう。彼らは午後東京でPOW研究会会員他との交流会でその経験を話し、翌日帰国した。

オーストラリア人にとても大切な4月25日のANZAC DAYの式典では大使により改めて彼らの訪問が参列者に披露され、平和が祈念された。